まっすぐに
3月上旬、春の気配が感じられるようになってきた。道端にはタンポポが咲いている。
暖かな日の光を浴びながら、なんの変哲もない昼下がりの住宅街を歩いている。
可笑しいは自分の方だった。
真っ黒なリクルートスーツに、暑苦しいトレンチコート。黒いパンプスに、黒のリクルートバック。
(暑い…なんか場違いだ…)
洋子は日の光りを避けるように日陰に入った。

どこからか、子供の笑い声が聞こえてきた。
洋子は一時保育に預けてきた娘のあきらのことを思い出した。
(こんなお天気にあきらと公園でお弁当食べたら楽しかっただろうな。)
(あきら、一時保育に預けるのは今日で10回目ね。もう昼御飯ちゃんと食べれるようになったかしら。お昼寝できたかしら…)

今朝も保育園に預ける時、あきらに泣かれてしまった。毎回のことでも胸を引きちぎられるような思いをする。

(そこまでして仕事したいのかしら…)
(なぜ私はそこまでしても働きたいと思うんだろうか…)

洋子の胸には小さいけれど、決して消えない炎があった。
その炎は洋子の体を燻り続けた。

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