蜜愛フラストレーション
ワインを飲む百合哉さんは努めて明るい。これ以上の心配をかけまいとサーモンのソテーを胃に収めた。
ただ、高級ホテルの料理も今夜は味がしなくて。高級白ワインを口にしてもまったく酔えずにいる。
これもきっと、優斗が出て行く寸前に口にしたことが原因なのだろう。
「誤解されたくないから話すけど、実はこれから近くのホテルで食事会なんだ。……正念場かもね」
最後にそう言い、薄く笑った優斗。しかし、その瞳は冷ややかなものに見えた。
課長と優斗のふたりから、すべてを知らされていないので、敵が誰なのかは分からない。ただ、相手が手強いことは感じ取れる。
通常業務に加え、問題解決のために奔走、なおかつ私まで気遣ってくれて。この約1ヶ月近く、彼の気が休まる時はなかったはず。
だからこそ、部屋を出ようとする背中に向かって、「行ってらっしゃい」と明るく声を掛けた。
振り返った彼は一瞬きょとんしていたが、すぐに、ふわりと微笑み返してくれた。
助力は叶わなくても一番の味方だから、と微笑み返して見送る。そうして閉じられたドアを暫くの間、静かに見つめていた。
優斗は今その相手と戦っているはず。緊張でそわそわし、ワイングラスの残りを煽った。
そこで、「萌ちゃん」と呼ばれて顔を上げる。その百合哉さんは真剣な眼差しでこう言った。
「優斗なら大丈夫よ。……だけど、私こそ頑張らなきゃね」
「どういう、」
「そうね。そのうち分かるわ」
煙に巻くようにユリアさんの妖艶な笑みが返ってきて。意味深な言葉が気になりつつも、それ以上掘り下げることは出来なかった。