蜜愛フラストレーション


「萌さん、なんか痩せたんじゃないっすか?」

「……そうかな」

「今もうどんしか食べてないし、顔色も良くないし。ほんと大丈夫っすか?」

「セクハラの意識皆無ね」

向かいから心配そうに窺う人に笑い返したところ、隣からは咎める声が被せられた。

意に介さない人と苛立つ人に囲まれた私。——このいびつな状態にはわけがある。

あれからデータも上げ終えた私は外でランチをしようと席を立った。そこへ現れたふたりから、昼食に出ようとのお誘いが。

こうして会社近くにある定食屋に入り、初めての組み合わせで食事をしているのだ。


「萌さん、カツ食べません?うどんじゃパワー出ませんって」

きつねうどんを啜る私に、斜めからの鋭い視線もスルーでとんかつを勧められるハルくんがこちらは大変心配なのだが。

「体調が悪そうだったら、普通とんかつなんて勧めないわよ。余計に体調崩すわ」

「蔵田さん固いなぁ。萌さん元々細いじゃないっすか。先輩の体調が心配なんすよ」

この会話ですら噛み合っていないのだから、普段もきっと平行線を辿っているはず。

悪びれたところが一切ない彼は、この1ヶ月で蔵田さんの機微は学べていなかった。

おかげで隣から冷ややかな空気が漂い始めているが、今の彼女を宥める勇気は私にない。

「心配という名のセクハラね……昼まで相手すんのかよ」

和食定食を食べながら、最後にぼそっと小声で本音を漏らす蔵田さんも負けていないので、どっちもどっちか。

心配していた男性不信の悪化は見受けられず安心したが、ストレスの蓄積量は相当のようだ。


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