蜜愛フラストレーション


「蔵田さん、何ぶつぶつ言ってるんすか?そうだ、萌さん。俺この前フラれたんすよ〜」

この状況で爆弾を放り込むな……!突っ込みを入れたいが、わなわな震える蔵田さんに笑いかけるハルくんは怖いものなし。

しかも、この1ヶ月前の間でもう彼女とお別れしていたのか。やはり彼は女性の機微を学ぶべきだ。

ついに、「……うぜぇな」と小さく呟いて舌打ちした彼女に、私はそろりと視線を送る。

イラッとされたのは承知していますが、満員の定食屋での大爆発はお控え頂きたい。

「蔵田さんどうしたんすか?早く食べないと時間なくなりますよ?」

この空気を察しないのはハルくんの鈍感力が高いから、と思い込んでしまおう。

「本当、平和が恋しいわ」

「俺も愛情に飢えてるんすよ。ラブとピースはセットじゃないと!」

「……永遠に破滅しろ」

「ほら蔵田さん、早く食べて下さいって〜」

ここまでくると、ハンマーで叩いても壊れそうにない彼の鉄壁ハートも羨ましく見えてくるから不思議なもの。

端から見る限り、課長の人体実験第一弾の途中経過は、良くも悪くもケミストリーが発生中だ。


ちなみにこのランチタイムは、蔵田さんがたまには指導役と新人交えて情報交換しろ、と課長に指示されたとのこと。

その場で昼食代も手渡されてしまい、生真面目な彼女は断れなかったのだろう。

——きっと松木さんと顔を合わせず、ひとりにさせないための防御策。巻き込んでしまったふたりを含め、皆に感謝した。


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