蜜愛フラストレーション
反応が出来ずにいる私に気を遣ったのか、この場に居合わせた百合哉さんたちは「状況伺いしてくるわ」と病室をあとにした。
先ほどまであれほど賑やかだったこの部屋も、ふたりきりになって一瞬の静けさが包んだ。
すぐに私が佇むベッドの方へと歩み寄って来た優斗。そしてベッドのそばで屈むと私の顔を覗き込んできた。
「本当に怪我してない?……こんなに腫れて痛いだろ?本当に、よく頑張ったな」
唇を小さく噛んで、震えを堪えて。何度も頭の中で反芻しながら、心に寄り添うような彼の言葉を噛みしめる。
これまでの戦いと激務に疲れているはずなのに。その甘やかな顔と声音はひどく優しい。
ズキンズキンと鈍痛の続く頬より、恐怖に震えた心の方が堪えていたから。それを汲んだ言葉が心にスーッと沁み入る。
ただジッと彼を見つめていた私は漸く、コクンとひとつ頷くことが出来た。フッと眦を下げて笑みを見せた彼に安堵する。
「ん?どうして俺がここにいるかって思ってる?
萌の性格上、強く主張する時は相手を思ってのことだって知ってるから、かな。
でも、さすがにその理由までは掴めなくて、少しだけ課長とユリアを脅したけど?
課長の指示で俺はこの件を処理するために派遣されてるから、ここに来るのが遅れてごめん」
話を端折っているのは、多分お昼の件も処理に含まれているために気遣ったのだろう。
そこで、先ほど紀村さんが私に謝罪した理由に行き着く。
きっと優斗に私との計画が漏れたことで、私の意に反する状態だったから心苦しかったのだろうと。
わがままを言って、安全なところに突き放せたと思っていたのに。
実際は羽毛のように柔らかくて温かい彼や、優しい周りに守られていて。その環境の中でもがいていたとも知らずに、ひとり戦っていたなんて思い上がりも良いところ。
「っ、」
“ごめんなさい”と口にしたいのに。伝えたい想いは喉の奥で塞き止められてしまった。