蜜愛フラストレーション

会話内容の再生が終わると、課長は「専務、まだ途中ではございますが、ご意見あればどうぞ?」と冷たい一声を投げかけた。

「それと、北川は見た目に反して真っ当な人間ですよ。残念でしたね?」

そう付け加えた課長に憎悪の目を向ける専務。それに反して、空木さんのにこやかさは増した。

百合哉が兄を、“相手を敵認定した時点で地獄の底まで叩きのめす”と揶揄するのも納得。……ついでに、“見た目に反して”は余計だ。


「専務、一時の感情に囚われる前に、この件の説明……いや、釈明をすべきではないか?」

ふたりの対峙により、会議室はピリピリと微弱な電流が走っている。その均衡を破ったのは、社長の冷ややかな声だ。

その言葉を聞いた瞬間、専務はテーブルに両手をつき勢いよく立ち上がるとこう叫んだ。

「……これは私を陥れるためのねつ造だっ!」

「そうか。つまり、我々がわざわざ余暇を使って専務を陥れていると言いたいのかね?
“重鎮”らしく、もう少しまともな答えが返ってくるかと思っていたが、非常に残念だ」

呆れ顔で嘆息した社長は専務から視線を逸らす。そして、固唾を呑んで見守っていた役員がたに目を向ける。

「皆さん、私は専務を刑事告発するつもりだ」

社長のまさかの発言に室内がどよめく。しかし、表情を変えることなく話を続けていく。


「自ら社の膿を世間に広める必要はないという考えも分かる。だが、この一件は氷山の一角にすぎない。
ここで事実を闇に葬っても、“今のように”いつかは明るみに出るもの。それがもし別のルートから晒されれば、会社の資質や経営陣の甘さを問われ叩かれるだろう。
今回は菅原くんたちが証拠を揃えてくれたが、以降の真相究明は司法機関に委ねる。これは決定事項だ。
私は“腑抜け”だろうが、悪事に手を染めないし、また悪だくみを看過するつもりは一切ない」

いつの間にか専務は席に着いており、俯いたまま顔を上げようとしない。

空木さんの次は社長から、グサグサと嫌味と絶望の針を直接刺されていては無理もないが。

これまでに人を踏み台にしてのし上がり、あくどい行いをしてきたのだから。この状況は、自明の理としかいえない。

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