蜜愛フラストレーション
同期の私たちは、入社直後に本社で行われた新人研修が初対面の場だった。
ただ新入社員すべてが集まり人数が多く、研修グループも違っていたので会話はしていない。
同じ部署に配属された後で互いを認識したものの、私には完璧を絵に描くような彼は畏怖の対象でしかなくて、あくまでただの同期。
むしろ同期だからと比較されるのは勘弁、と自然と必要以上の関わりを避ける存在だった。
『あれ?斉藤さん?』
『……驚きました。北川さんも?』
そんな間柄が変化したのは今から三年前。——大学進学で上京していた友人が主催した、交流会という名の合コンで鉢合わせたことがきっかけだった。
その頃には我が社のエースと称されていた彼とは、業務以外で関わることは無かったというのに。少し遅れて現れた彼と目が合った瞬間、敵前逃亡したくなった。
驚きのあまり言葉を失い固まっていると、こちらを見ながら苦笑する彼。その反応がまた気まずさを助長した。
仕事以外で顔を合わせたのは初めてだったが何故、モテるこの人がここに来たのかと。
あとから知ったのは、どちらも直前に双方の友人に頼まれての参加だったこと。さらに、主催者の二人は私たちが同じ部署で働く同僚とは知らなかったらしい。
私は彼氏がいないことを友人に心配されてのお誘いだが、もちろん彼は目玉商品としてだ。
その彼が現れた瞬間、女性陣の目の色が瞬時に変わった。
ここはサファリかと見紛う空間で、肉食ハンターたちは狙いを一点に定めた。
ライバルを牽制し合いながらの売り込み合戦に、若干引きながら動向を見守るのは私と友人のみ。
男性陣は諦めたのか引いてしまったのかは分からないが、諦めムードを漂わせていた。
しかし、捕獲対象の彼は笑顔でハンターをかわすと、そのまま私の隣の席を確保。おかげで私は、ほぼ初対面の女性陣から冷たく鋭い視線を浴びる羽目になった。
ただ、そんな攻撃が生易しく感じるほど、隣に居座る彼への対応で迷っていた。
こちらとしては、エリートに対する苦手意識から劣等感を刺激する同僚でしかなかったのに。普段、関わりのない人と業務外のことで何を話せば良いのか。
ここは穏便に無言を貫くべき?それとも適当な理由で友人のもとへ逃げようか?開始早々、隣から感じる視線によって平常心は失われていた。