蜜愛フラストレーション
けれども、手に余るほどの心配は杞憂なものに終わった。
彼に対して身構えていたのを隠せていなかった私に、「今日はよろしく」と仕事中よりも気さくな態度で話しかけてくれたのだ。
それでも予想外の態度を向けられて、瞠目する私の反応はつまらなかったはずなのに嫌な顔ひとつ見せない。
さらに仕事の話には一切触れず、取り留めのない話題を振ってくれて。アルコールの力も手伝って、緊張の糸が切れたのかいつしか自然と笑えるようになっていた。
その後は会話を楽しむ余裕も生まれ、互いの趣味のひとつがゴルフだと分かってからはゴルフ談議に突入していく。
マスターズなどのゴルフ中継は録画で見てるとか、あのゴルフ店は品揃えがいいよねと教え合ったり。
彼と会話していると、その端々から相手を楽しませようとする気配りと優しさを感じ、苦手意識を抱いていたことを心から反省する。
同時に、社内での評判の高さが実力以外にもあると実感した。
衝撃的な始まりだった合コンも私と彼には飲み会へと変わったが、それも終わりの時を迎える。場所を移す人達もいたが、私たちは辞退して帰ることにしていた。
ちなみに合コン中から終了までハンターからの総攻撃は続いたものの、彼はそれらすべてを見事にかわし続け、その芸当はあざやかで感動すら覚えた。
しかし、大物の捕獲に失敗した肉食女性陣からの、槍で突つかれるような凄みある視線を送られ続けたのは言うまでもない。
なんだか盾にされたような気もしたが彼には煙に巻かれ、自宅まで送るよと言われた。
個人的にはあまり量は飲んでおらず遠慮したものの結局、彼とともに最寄り駅まで酔い醒ましがてら向かうことになる。
ぬるい夜風は火照った身体には心地よく感じ、その間も会話が止まないまま駅に着くと、すぐにやって来た電車に乗り込んだ。
いくつかの駅を通過し、目的駅で電車を降りた私たちは夜道をふたりで歩いた。
道すがら、家の前まで送って貰わなくても大丈夫だと丁重に断りを入れていたのだが、彼は頑として譲らず、堂々巡りが続いていた。
『安心して。ちゃんと送り届けたら帰るよ』
最終的には穏やかな笑みで告げられたので、そもそも場数を踏んだ人が送り狼になるほどの魅力は乏しいしいいか、とひとり納得する。
ありがとう、と感謝して笑い返すと、隣を歩く彼から優しい眼差しを向けられたのだが。——業務外で親しくなった同僚からのほんの親切心だろう、とこの時は感じていた。