蜜愛フラストレーション


それには敢えて触れず、苦笑を深めただけで。確かに柔らかい印象を受ける稲葉さんと重なる部分は多いけどね、と話し始めた。


「……見た目だけ、そう見た目だけ。外見は人目を引くしね、バリバリ働くとことか柔らかい感じとか。何となく、鈴から聞いていた稲葉さんと共通点あるかもって、私も“昔”は思ってたの。
でもね、柔和なように見えて実際あくどいし、しつこさで言えばすっぽんと同レベル。
人の感情を両極端まで揺さぶり倒すし、その態度で性的衝動に駆られるとかどんだけ?執着心だって半端ないしねぇ。
ただ、自分に厳しくて真摯に取り組むからこそ、業界でも一目置かれてるの。天才肌だけど稀に見る奇人ってことね。
あの思考回路と発想に凡人が敵うわけないのに、私ごときがどうしろと?ねえ?
しかも、事あるごとに信じろって言う優斗に今さら何を言えと?……ただ、信用失くす行動はしないで欲しかった。
それだけなのに……って私、何言ってんの?あーもう!支離滅裂すぎてごめんね」

あれこれ考えていると、積年の怒りがふつふつと沸いてきたので、感情のまま淡々と要領の得ない愚痴を零してしまった。

怒りだしたら過去を引っ張り出して責め立てる女ってやっぱり怖いわ、と自分の行動を客観的に振り返って感じた。

所在なげに視線を泳がせて閉口していると、サンドバッグ状態と化していた彼女がプッと噴き出しそちらを見やる。

「萌ちゃん、昔から怒ると早口で一気に捲し立てるとこ変わんないね。
私は思ったことをそのまま口にしちゃうでしょ?だから、頭が良くて大人の対応が出来る萌ちゃんのことがずっと羨ましかったの。
出来っこないのに萌ちゃんっぽく振る舞ってみたこともあったしねー」

あはは、と昔を思い出したように笑う彼女。初耳の私のほうが瞠目する有り様だ。

< 53 / 170 >

この作品をシェア

pagetop