蜜愛フラストレーション


ヘアセット後でストローハットを被っていなかったのも災いし、痛みが稲妻のごとく走った。

「ズボラは精進なさい」なんて、勝ち誇った笑みも妖艶で若干イラついたが睨むに留める。

歩き始めてから10分ほど経った時、彼女が一軒のお店の前で立ち止まる。

そこは店構えから高級な雰囲気で、日本料理特有の風格を漂わせていた。

「此処とか言わないよ、ね?」

一人暮らしのアラサーとはおよそ無縁なその佇まい。値段の書かれていない店であるのは明白。

顔を引きつらせて尋ねるが、「行くわよ〜」と私の腕を取った彼女に強制的に入店させられた。

引き戸の入り口を潜る。すぐ目に入った、コの字型の檜のカウンター席は埋まっており、その向かいには鮨職人が数名。

すると、ユリアさんが給仕さんに名前を告げた。どうやら事前に予約していたらしい。

そこへ、南マグロのトロが美味しいわね、とカウンターで優雅に食事中のマダム方の声が聞こえてきた。

南マグロは数あるマグロの中で私も一番好き。脂のノリは程よく、とろけ方が絶妙。トロ鉄火に握り、炙りもまた良し。地元の寿司屋の大将も一押しだったなと思い出しながら、後ろをついて行く。

落ち着いた雰囲気の店内は鰻の寝床のように、カウンター以外すべて襖で仕切られた個室が続いていた。

給仕さんに靴を脱ぐよう促され、各自履物を預ける。そして給仕さんが声を掛けた部屋の戸がスーッと開かれていく。


「……何してんの」


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