蜜愛フラストレーション
運転中の彼の横顔は明らかに動揺していて。答えを急かす勇気を失い、逃げるように視線を正面に移す私は意気地なし。
張りつめた車内の空気へと逆戻りし、後悔が押し寄せてくる。二の句も継げず、中途半端なままの自分に泣きたくなった。
「……ごめん、予定変更。ちゃんと話がしたい。家に帰るまで待ってて?」
不意に低い声で尋ねられ、虚を衝かれながらも頷く。すると彼は走行中の幹線道路を右折し、そのまま自宅方面へと向かった。
休日の賑わう街並みを窓越しに眺めていたものの、あれこれと定まらない感情を抱えて無言に徹する。
一方の彼も、あれから口を閉ざしたまま。水を打ったように静まり返った車内では、BGMが唯一の音として響いていた。
——答えを引き延ばされ、期限のない“いつか”をただ待つ。これがどれほど辛いことか、僅かな時間で思い知らされる。
いや、まだ甘っちょろい。今とは比べものにならないほどの時間、彼の心を傷めてきたのだから。
しかも、肝心の告白がたどたどしいとか。……一度クーリングオフして貰ってやり直ししたい。
ああもう、この面倒な性格に苛立つ。人間くさくて良いとユリアさんは言ってくれるが、未だに持て余している。
自己嫌悪に陥る間も事態は動かず。バクバクうるさい鼓動を抱え、時には過去を整理しながら助手席のシートに身を預けていた。
暫くして見慣れた街並みへと差し掛かる。そこから時間も掛からずに、例の人目を引くマンションに到着。
敷地内にある駐車場に車を停めるとエンジン音は止まり、それぞれドアを開けて車外に出た。
ドアを閉めた私は、ひと息ついて固まっていた身体を解す。その刹那、素早くこちらまで回ってきた優斗に手を取られる。
目を大きく見開いて彼を見上げれば、その茶色の双眸は焦りを滲ませていて、言葉に詰まってしまう。
すると彼のほうから視線を逸らされ、「優斗?」と呼びかけても応じてくれない。
困惑する私の手をまた少し強めに引くと、彼は無言でマンションのエントランスのほうに歩き始めた。
この状況でコンパスの違いを責める余裕はない。ただ引き摺られないように、目の前の背中を見ながら早足で後を追っていた。