新社会人の私と不機嫌な若頭


握っている手も
杏奈にこんなチカラがあるのかってくらい強く握ってくる


「岸谷さん、そろそろいきますよ」


『は……んーっ!……はぁ、はぁ』


「次、いきますね。いち、に、はいっ!」



『んーーっ!はぁ、はぁ、はぁ』


「上手ですょね。いち、に、はぃ!」



何度か繰り返された
その度に杏奈の顔が歪み、若干悲鳴にも聞こえる呼吸、止まらない汗


「杏奈、がんばれ。」


『ん……りょう……すけさ、んーっ!』




「はい、いいよー!出てきた。リラックスして。深呼吸よ」


おばさん先生の言葉
出てきた?なにがだ?
もしかして、赤ん坊?

けど、鳴き声すら聞こえない


「岸谷さん、臍の緒きりますので、こっちに来ててねー」


杏奈の手が緩まり
『…おねがいね……』


そう言われ、そっちの方に行く

「じゃぁ、出しますね」


と、おばさん先生が言うと
何かを引っ張り出した


「……ンギャ、ンギャ……ンギャ」


誰の声でもない
明らかに……赤ん坊の鳴き声


「はい、産まれたよ。岸谷さん、ここ切ってください」


訳が分からず
言われるままハサミで切る
< 147 / 149 >

この作品をシェア

pagetop