ベビーフェイスと甘い嘘
それにさー、と笑いながら九嶋くんが話を続ける。
「ほんとに冷たい人だったら、あんな可愛い願い事書かないでしょ」
そう言って入り口近くの壁を指差す。そこには送別会へ行く前に外した短冊が飾られていた。
「ずいぶんシンプルな短冊ね」
店長の名前が書かれているオレンジ色の短冊には『人望』と一言だけ書かれていた。
「ね。みんなと仲良くしたいんだって。きっと」
「……ひねくれたヤツ」
「素直じゃないのは、ねーさんも一緒だって」
矛先がこっちに回って来たので、聞こえないふりをしてまた短冊に目を向けた。
『信頼』と一言だけ書いてある黄色い短冊は初花ちゃん。シンプルな所は店長のと似ている。……今回は失敗したけど、何かいいきっかけがあったら二人は仲良くなれるのかもしれない。
『恋がしたい』と真っ白な短冊にピンクの文字で書いているのは唯ちゃん。『彼氏が欲しい』と書いていない所はさすが、純粋培養。願い事も素直で可愛らしい。
『無事に出産できますように』これは鞠枝さんの願い事だ。
「あれ?九嶋くんのは?」
「俺は書いてないよ。願い事をしてまで、叶えたい夢は無いからね」
みんなの願い事でカラフルに彩られた壁に目を向けて、九嶋くんは少し寂しそうに微笑んだ。