ベビーフェイスと甘い嘘
そんなもんかな?
私が九嶋くんと同じ26歳の時は夢の中にいたはずだ。ずっと追いかけていた夢を叶えて念願の司書になって充実した日々を送っていた。
毎日がキラキラしていて……だから、今の言葉に隠された嘘が何となく分かってしまった。
「違ってたらごめん。九嶋くんは夢が無いんじゃないよね。……ほんとは夢を無くしちゃったんじゃないの?」
踏み込んではいけないと思ったけど、口にせずにはいられなかった。だって本当に夢が無い人はこんな風に寂しそうな顔をしないと思う。
私のそんな言葉に九嶋くんは苦笑した。
「ねーさんってさぁ……ほんとに余計なことだけ鋭いよね」
「夢を無くしたって言うよりは歌を忘れたって言葉がぴったりかも……カナリアみたいにね」
九嶋くんは困った顔のままでそう言った。最後のほうは呟くように小さな声だった。
あんなに素敵な声をしているのに『歌を忘れた』だなんて……
意味はよく分からなかったけど、彼の呟きははっきりと耳に残った。
やっぱり言わなきゃよかったかな……
「あー!茜さんだー!!」
二人の間に落ちた沈黙を破るように、店先からアーケードに響き渡るような大声で私の名前を呼ぶ声がした。