ベビーフェイスと甘い嘘
「直喜、帰ろう」
「やだ、まだ帰んない。せっかく会えたのに」
「……ねぇ茜さん、これからどっかに行こうよ……二人っきりで」
「……怒るよ」
わざとらしく、あの日と同じように誘う直喜に軽く怒りを覚える。
小声で私だけに聞こえるように話かけているけど、もしこんな会話を九嶋くんやお客さんにまで聞かれたらと思うと、たまらなく恥ずかしい。
「じゃあさ……手、繋いでくれたら帰る」
何それ。帰ってやってもいいよ、って感じ?……ほんと、めんどくさい。
「わかった。『ウサミ』まで送ればいいのね?」
「ちょ、ちょっと、ねーさん!」
接客を終えた九嶋くんが慌てたように声をかけてくる。……何でそんなに慌ててるの?
「騒がしくしてごめんね。ほら、直喜行くよ」
九嶋くんに向かって片手でごめんね、と謝って手を振ると、もう片方の手で直喜の手をぐいっと引っ張りながら店の外へと出て行った。
***
その様子を見ながら、九嶋は溜息をついていた。
「ねーさんってば、ほんとに分かってないな……あんなの、放っとけば勝手に帰るのに」
二人の後ろ姿に目をやりつつ、直喜が余計なことをしませんようにと……そう思いながら、仕事へと戻って行った。