ベビーフェイスと甘い嘘

「そこにいるの……智晶ちゃんじゃない?」

……何で奈緒美ちゃんが九嶋くんのことを知ってるの?


そして確かに名前を呼ばれているのに、九嶋くんは目を反らして何も返事をしなかった。


それを疑問に感じるよりも先に、奈緒美ちゃんが九嶋くんに掛け寄って行く。


「奈緒ちゃん、走っちゃダメだって!」


走る奈緒美ちゃんを直喜が慌てて止める。

その様子を、私と裕子姉さんと千鶴ちゃんは呆然と見ていた。


「やっぱり智晶ちゃんだ……久しぶり。元気だった?」


にこやかに話しかける奈緒美ちゃんに対して、九嶋くんの表情は固いままだった。


「久しぶり、奈緒美さん。……声なんかかけなくても良かったのに」


ようやく返事をしたその声は、今まで聞いたことがないくらい冷たい声だった。
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