ベビーフェイスと甘い嘘

「それにさ、もうひとつ聞きたいことがあるんだよね」

私が疑問を口に出すより早く、直喜はまた私に話しかけてきた。

「何?」

どうぞ、と続きを促す。直喜は私の足元に跪いて、その目は足元を見つめたままだ。そして手はまだ私の足に触れている。


「5年前泣いていたのは、仕事の事だけじゃなくて……何か心が傷つくことがあったからなんじゃないの?」


「気がつかないふりをしてまた傷ついて……しあわせだったら癒えるはずの傷が塞がっていないから……だから今でも心が苦しいんじゃないの?」


「傷口はね、こうやってちゃんと自分で治そうとしないと、塞がらないよ」


絆創膏越しに傷口をなぞりながらそう言うと、直喜は顔を上げて私の目をじっと見つめた。



「柏谷茜さん……あなたは今しあわせですか?」



「……つぅっ」


さっき痛んだ足に触れられた時と同じ声が、思わず口から零れ落ちた。



鈍い私にもようやく分かった。


直喜は私の足の傷だけじゃなく……心の傷口にも今同じように、包み込むようにそっと触れたんだって。
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