ベビーフェイスと甘い嘘
今まであの日の事なんてまるで無かったように振る舞っていたのに、直喜の方から謝ってきたことに驚いた。
「あの日のこと、ちゃんと覚えてるの?直喜、凄く酔ってたよね……」
「確かに酔ってたけど、覚えてるよ。あの日に言ったことも……したことも全部」
ちらり、と私の胸元に目をやって直喜はそう答えた。あの日付けられた赤い痕も手の傷も、もう綺麗に消えたけど……やっぱり何をしたのかは、しっかりと覚えているのだと思った。
その目線に、思わずびくっと身体が震える。
震えが伝わったのか、触れていた私の足をそっと膝から下ろしながら、直喜はため息をついた。
「だからね……傷つけて泣かせるだけなら、もう会わないほうがいいのかもしれないって思ったんだ……まぁその理由も後付けだけど。ほんとは嫌われたと思って、ビビって連絡もできなかっただけで……」
「実はずっとびくびくしてたんだ。奈緒ちゃんやみんなの前で平気なふりして会話してるのもキツかったんだよ」
……全然そんな風には見えなかったのに。
「……私だって……奈緒美ちゃんがいて、裕子姉さんや千鶴ちゃんまでいて……しかも結婚式の時の話なんて……ほんと、逃げ出したかったんだから」
私の言葉を聞いて直喜は眉を下げて笑った。
その困ったような顔が、私をじっと見つめるその漆黒の瞳が……
ありきたりな言葉だけど、とても綺麗だと思った。