ベビーフェイスと甘い嘘

「最近なんて、相手が結婚しててもお構い無しらしいですからね。花火大会の時にね、子ども連れの浴衣美人と歩いてたらしいんですよ!」


「ひっ……」


「どーしたんですか?変な声出して」


「なっ……何でもない」


「夕勤の藤田(ふじた)くんから聞いたんですよ!ウサミが子ども抱っこしながら、ここで買い物してたって」


……間違いない、一緒にいたのは私だ。

ということは、藤田くんも地元の子なんだ。知らなかった……


「でも、相手の人は外で待ってたらしくって、顔は見えなかったんですって」


顔が見えなかったら浴衣『美人』かどうか分かんないのに、みんな適当な事を言って……


『浴衣は着てたけど美人ではないです。すみません』


……とも言えない私は、「ふーん」と適当に相づちを打つ。幸い私だってことは、藤田くんにばれなかったらしい。


やっぱり今までのアレコレは迂闊な行動だったんだと、今更反省してももう遅い。身体中から変な汗が吹き出て背中を流れる嫌な感触がした。


「あと、その人かどうか分かんないんですけど、何か、修羅場になってるのを見た人がいるって聞いたんですよ」


「修羅場って?」


直喜とは……デートもしたし、この辺を手を繋いで歩いたこともある。


私が気がつかなかっただけで、やっぱりいろんな人に見られていたのかもしれない。


だけど修羅場と聞いて思い出す出来事は……


『どれだけ自分が無自覚で無防備かって……ちょっとは思い知ってよ』


そう言われて……路地裏で何度もキスされて、囁かれて、理性が解けてバラバラに崩れ落ちそうになったあの夜の事だけだ。
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