ベビーフェイスと甘い嘘
もし、見られていたとしたら……
焦ってドキドキする心臓の音が聞こえたらどうしようとびくびくしながら、表面だけは「それで、それで?」と興味津々な様子を装って続きを聞く。
「喫茶店でね、夫婦っぽいお客さんが座ってて、そこに呼び出された様子でウサミが来て……奥さんのほうに引っ叩かれてたって」
「絶対旦那と友達なのに、その奥さんにちょっかい出したんですって。ほんっと、最低ですよねー」
……なんて言っている唯ちゃんの言葉は、最後まで耳に入って来なかった。
それは私じゃない。大体、そんな話は初めて知った。
『他の誰でもなくて、茜さんがいいんだよ。……分かった?』
さっきの直喜の言葉が耳元に甦る。
直喜の言葉はいつも甘い。
甘すぎて怖い。
心ごと取り込まれそうなほど、真剣な瞳で話すから余計にそう感じてしまう。
嘘だと分かっているつもりでも、本当の気持ちだと信じたくなってしまうから。
……やっぱりさっきのは私の勘違いで自惚れだってことだよね。
どうして直喜は嘘をつけるんだろう。
あんなに甘い言葉でさらりと嘘をつくなんて。
うわべだけの人間関係しか築いてこなかった私は、こういう時に……
好きな人の心の中に近づく術が分からない。