ベビーフェイスと甘い嘘
「柏谷さん、腕を見せて」
「あ、あの……」
「袖を捲って腕を見せてください、って言ってるんですよ。俺が触るのは、怖いんでしょう?……大体、こんなクソ暑い日に長袖を着てる時点でおかしいんだよ」
店に入った時に二人がびっくりしていたのって、私が長袖を着てたからだった……の?
観念して、そろそろと着ている長袖Tシャツの袖を捲り上げる。
起きた時は、暑いどころか寒気を感じていたから、今日がそんなに暑い日だなんて気がつかなかった。
長袖を着たのは寒かったから。それと……
「……やっぱり。柏谷さん。これは誰に?」
私の腕に付いた痣を見て、店長は顔を歪ませた。
「昨日、ちょっと……転びまして。」
ごまかさなきゃ……そう思って言った下手な嘘に店長はさらに顔を歪ませて、不機嫌な表情で詰め寄って来た。
「あんたバカか?そんな言い訳通じるワケないだろうが。この頬だって……叩かれたんじゃないのか?」
そっと伸ばされた手が、まだ腫れの引かない頬に触れる。
乱暴なその口調とは反対に、店長の手は優しい感触がしたけど、酷く冷たく感じた。
その冷たさを感じて、ようやく自分が熱があることに気がついた。
「だいぶ熱が出てるな。……このままだと、家族に連絡して来てもらうことになるけど、どうする?」
何もかも見透かしたその言葉に、私は抵抗する事を諦めた。
「家には……夫には連絡しないでください」