ベビーフェイスと甘い嘘
「……ありがとう」
「ねぇ、ねーさん。昨日あれから旦那さんと話したんでしょ?それで……」
「おい、九嶋。お前まだ10分残ってるぞ。……店に戻れ」
九嶋くんが何か話しかけようとした所で、店長がスタッフルームに現れた。
「店長……でも、」
「いいから戻れ」
「……はい」
心配そうな表情で私を見ながら、九嶋くんは店内へと戻って行った。
残された私にちらり、と店長が視線を向ける。
「……柏谷さん」
「何でしょうか……っ、きゃっ」
返事をする間もなく、いきなりぐいっと腕を掴まれて、そのままスタッフルームの奥の資材庫までずるずると引っ張られた。
その瞬間、修吾に腕を掴まれて引き倒された時の恐怖を思い出して身体が固くなった。
「……っ、はなし……て!」
目の前にいるのが店長だとか、そんな事も頭からふっ飛んで、乱暴に手を振り払う。
カシャン……
振り払った手が店長の眼鏡に当たり、乾いた音を立てて床に落ちた。
その音で我に返る。
「あっ……すみません……」
「いえ。こちらこそ、乱暴な事をしてすみませんでした」
眼鏡を拾いながら店長は静かに謝った。
「この場所じゃないと、防犯カメラに映ってしまうんです」
「……えっ?」
「それとも、証拠としてカメラに映しておいたほうがいいですか?」