ベビーフェイスと甘い嘘
そう言うと九嶋くんは深く息を吸いこんで、ゆっくりと話はじめた。
「今から話すのはね、ちょっとした昔ばなし」
「昔……ある所に『くしまちあき』という名前の、人よりちょっと歌うのが好きなだけの、ごく普通の少年がいました」
ほんとうに昔ばなしのように語りだした九嶋くんに、ちょっとだけ笑みを浮かべながら耳を傾ける。
「ちあき少年には夢がありました。夢なんて簡単に叶うと思ってました」
「少年は大きくなると歌手になろうと夢見るようになりました。一緒に夢を目指す仲間もできました。大好きな仲間と一緒に過ごす時が……何よりも大切でかけがえのない時間だった」
「好きな人もできた。お姫様に憧れているような、ちょっと夢見がちで……恥ずかしがりやのくせに歌うのが大好きな子。一緒に歌いながら、その楽しそうなキラキラした顔を隣で見ている時がいちばん幸せだった」
……やっぱり彼には夢があったんだ。大事な夢も、大切にしている人もいた。
「でもね、俺の夢は、ある日突然他の人のものに変わっちゃったんだ」
そこまで話すと、九嶋くんは急に悲しげな表情になった。
「……他の人のもの?」
自分の夢が他の人のものになる、その意味が分からなくて思わず聞き返す。
「うん。俺はね、当時はバンドをやってたんだ。インディーズで出しませんか?なんて話もあったりして……それなりにうまくやってたんだ、俺たちは」