ベビーフェイスと甘い嘘

意識してしまった恥ずかしさに思わず瞳を反らすと、そのまま首筋に顔が近づいてきた。


九嶋くんの指先が……手首から腕を辿って肩を滑り、首筋をなぞりながら私の髪をかき上げていく。


「……ねぇ」

露になった耳元に囁かれて、思わず身体がびくりと揺れる。


「お互いの傷をさらけ出して……楽になりたいと思わない?」


……楽になる?


それって、傷口を舐め合おうよってこと?


……そんなのは苦しくなるだけだよ?


それに、あなたには大切な人がいる。


今でも心のバランスが取れなくなるくらい……忘れられない人なんじゃないの?


そう思ったのに、声にすることはできなかった。


うつ向きながらもようやく口から出たのは「そんなの……ダメだよ」という否定にしては弱すぎる言葉だけだった。


「茜さん」


不意に名前を呼ばれたことに驚いて顔を上げると、思ったよりも間近に九嶋くんの顔があった。


可愛らしいのに整った形の瞳が、じっと私だけを見つめている。


その近すぎる距離と見つめられている恥ずかしさで、耳まで血が上ったのがはっきりと分かった。
< 360 / 620 >

この作品をシェア

pagetop