ベビーフェイスと甘い嘘

信じられないけど……九嶋くんは私のことを想ってくれていたんだ。

ずっと……?いつから……?


『友達じゃない』と言ったその言葉は理解できたのに、全く感情が追い付いてきてくれない。


「今は何も考えなくていいよ。茜さんが今誰の事を考えていて、誰の事を好きなのかも……知ってるから」


「だけど我慢できなかったんだ。茜さんが全然しあわせそうに見えないから。いつも涙を堪えて悲しそうな顔をしてる。……もうあんな風に泣かせたくない」


「一緒にいようよ。……俺ならどこにも行かないし、茜さんだけしか見ない。だからね、俺のことをちゃんと考えて。男として見てよ」


あなたに男は感じません、と前にそう言ったからだろうか。

九嶋くんは、私に好意があると目の前ではっきり伝えてくれた。


もう『職場の気の合う友人』じゃなくなってしまう……


なんだか、その事が無性に寂しかった。


私が踏み込まなければ、こうはならなかったのだろうか。


違うな……とすぐに思い直す。


きっとこうなる事は避けられなかった。


私は、彼のことをとっくに男だと思っていたから。


ベビーフェイスで中性的な九嶋くんだけど、その手はとても男らしい。掌は大きくて指の関節の一つ一つはとてもしっかりとしている。


そんな頼りがいのある彼の手の感触を、私の肌はもう知っている。


その手が、指が、私の顔に触れる度に心臓が音を立てて緊張してしまっていたことにも……



……とっくに気がついていたから。

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