ベビーフェイスと甘い嘘
だけど、アカネさんに受け取ってもらえなかったホテル代の代わりにデートをしようと思って、オッケーの返事をもらった時、ふと『sora』に連れて行こうと思いついた。
別に俺にとって特別な場所にアカネさんを連れて行ったからと言って、彼女に特別な感情を抱いている訳じゃない。
ただ、泣いていた彼女を放っておけなくて、少しでもあの温かな場所で彼女の心が癒されればいいって、そう思っただけだ。
『still』に連れて行ったのだって、智晶さんとアカネさんが仲良くなれればいいって、確かにそう思ったのもあるけど……
智晶さんの歌を聞いて、アカネさんがどういう反応をするのか見てみたかった。
喜怒哀楽なんて型にはまった言葉には収まらないくらいに、智晶さんの歌声は、様々な感情を飲み込んでストレートに吐き出してくる。
いつも俺が無意識に閉めてしまう心の扉を、この人は遠慮無く蹴り飛ばしてしまうから、無防備になった心に、その傷に、否応なしに向き合わされてしまうんだ。
この人の歌声には、そんな不思議な力がある。
だけど、俺もピアノが弾きたくなるなんて全くの予想外だった。
ヤスさんも智晶さんも驚いていたけど……あの場で一番驚いていたのは、そんな行動を取った自分自身だった。