ベビーフェイスと甘い嘘
『sora』は、叔父一家が営んでいるレストランで、俺にとっては特別な場所だ。
ピアノを始めてすぐの頃、発表会を見に来て欲しいと両親に言ってみたことがあった。だけど、店を離れられないからと断られてしまった。
たぶん、俺は凄くがっかりした顔をしていたのだろう。そんな俺を見て、祖母が発表会が終わった後に『sora』に連れていってくれた。
ドレスコードは無いし、そんなに格式の高いお店ではないけれど、それでもピアノ教室をたたんで経済的に余裕がある訳では無い祖母が俺を頻繁に連れていける所では無かったはすだ。
「身内からお金は取れないよ」と言う叔父に、祖母は「私たちはただの客ですよ。だから、『いらっしゃいませ』って言って迎えてくれるだけでいいのよ」と笑いながら言っていた。
それから、発表会が終わったら『sora』でご飯を食べるというのが、祖母と俺の間では決まりのようになっていった。
『sora』で食べるご飯は美味しかったし、何より、俺の複雑な家庭の事情を知っていて、それには触れずにいつも温かく迎え入れてくれる叔父一家の優しさが嬉しかった。
『sora』に行くとどうしてもあの頃の寂しかったり、悲しかった気持ちを思い出して心がざわついてしまう。進学の為に羽浦市から離れ、祖母も亡くなってしまった事もあり、ここ何年かは『sora』から足が遠退いてしまっていた。