ベビーフェイスと甘い嘘

ぼろぼろになった茜さんを置いて、逃げるように家の中に入った。酷い事をしていると思ったけど、あのまま一緒にいたら、もっと酷い事をしてしまいそうな気がした。


心臓の鼓動が煩わしい。


さっきまでの温もりを、柔らかな感触を思い出してはざわつく気持ちを再び身体の中に閉じ込めるのに苦労した。


その気持ちが落ち着いた時、……そういう事だったんだ、とようやく気がついた。


中途半端に身体の関係を持ってしまったのに、友達だって言い張って割りきった関係を続けようとした。


最初は『家族』を求める似た者同士なのだと思っていた。

仲間を見つけたと思って、近づいて、近づいた分だけ自分も過去の辛い気持ちを思い出しては心を乱されていくのに……それでもただ会いたくて。


見る度に、会う度に、彼女の涙を見る度に、ざわつく気持ちを押さえることが出来なくなっていった。


これ以上泣いて欲しくないと、涙をとめてあげたいと思っていたのに、衝動のまま触れて泣かせて、傷ついた彼女を見て死ぬほど後悔して……


取り返しのつかない事をしてしまったこの状況で、俺は茜さんに惹かれていたんだとようやく気がついたんだ。



***

それから暫くは罪悪感も手伝って、茜さんに連絡をしたり、会いに行くどころか、コンビニのベンチに近づくことさえできなかった。


そして夏祭りの日に偶然再会して、初めてカケルを見た時に、また現実を思い知った。


俺がした事はただの自己満足だった。世間に茜さんとの関係が知られたら、結果的にこの子を悲しませることになってしまう。

俺に向かって笑いかけるその無邪気な笑顔を見る度、胸が軋んだ。
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