ベビーフェイスと甘い嘘
このフレーバーティーは、奈緒美ちゃんの結婚式の時に直喜が持ってきてくれたあのフレーバーティーと似ている味がするから。
あの味わいが気に入って飲んでいたと思っていたけど、それだけじゃなくてこれを飲む度にあの日の事を思い出して、そして忘れたくないと思う自分がいたのだということに今更気がついた。
直喜は、時々配達の途中にここに立ち寄る。
だけど、私が他のお客様と話していたり、レジに立っていないのを見計らったようにやって来て、コーヒーを入れて足早に去っていく。
視界の端に映る顔は、あの日のように哀しい顔をしているように見えた。
『もう話しかけないから』
私だけに向けられていた笑顔も、もう見ることはできない。あの柔らかな優しい声も、もう側で聞くことはないのだろうかと思うと、胸が苦しい。
直喜の気持ちも考えないで突き放したのは自分なのに。
……いつも嘘をついてばかりでごめんね。
もう声を掛けないで、なんて嘘。
会いたくない、なんて嘘。
またいつものように私に話しかけて欲しい。
なんて事のない会話をしていた日々が泣き出しそうなほど懐かしく思えるのに、胸が痛むばっかりで涙は流れて来ない。
この胸が痛むうちは、とても思い出になんてできそうにもない。