ベビーフェイスと甘い嘘
友達じゃなくなってしまってから、九嶋くんには困ったり寂しそうな顔ばかりさせてしまったけど、また心からの笑顔が見られて良かったと思う。



ーー九嶋くんのその笑顔が好きだった。



恋愛の感情ではないけれど、私の心の中には、確かに九嶋くんの事を好きだと思う気持ちはあった。


九嶋くんは、嘘だらけだった修吾の『好き』とは違って、私に初めて本気で『好き』だと言ってくれた人。



その『好き』が私の『好き』と交わる事は無かったけど、彼は確かに気持ちを伝えてくれた。



その事だけは、絶対に忘れないようにしようと思った。




***


「……ねぇ、一つだけ聞いてもいい?」


「どうぞ」


「『still』で直喜が弾いた曲って、何?……あのね、二曲目の『STAY(ステイ)』は知ってたの。…………『crown(クラウン)』の曲……だよね?」


ずっと気になっていた。


九嶋くんはさっき『still』で私が見せた涙は、自分に向けたものじゃないって言ってたけど……九嶋くんの歌声が無ければ、私はあんなに感情を揺らされなかったはずだ。


九嶋くんにとって『crown』の曲は、たぶん悲しい過去の記憶と直結していて、その感情が私の悲しみと繋がった。


今まで気になっていたけど、九嶋くんが苦しむ姿は見たくなくて、ずっと聞く事ができなかった。


ーー『自分の問題と向き合う』と言った今の九嶋くんになら、聞いても大丈夫だと思ったから。

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