ベビーフェイスと甘い嘘
顔色をうかがいながら話しかけたのが伝わってしまったのか、九嶋くんは苦笑いを溢した。


「そんな恐る恐る聞かなくても、もう大丈夫だって」


「本当、ねーさんは面白いよね。俺が『still』で歌ってる姿を見たらさ、普通の人なら、何であんな格好で歌ってんの?ってまずそこを聞くよね。なのにそこはアッサリ受け入れて、『女装男子』なの?なんて聞いてくるし。かと思えば、『stay』を聴いて『悲しい歌声』って言うし。みんな切ない曲だねって言うのに」


「それってさ、曲には全く興味が無くて、俺の歌声だけに興味を持ってくれたから出てきた感想だよね」


「……俺ね、歌ってて苦しい時もあったけど、今は歌い続けて良かったって思ってるんだ。誰かの心に俺の歌声が届いた。そして、誰かの為に歌おうと思った。その喜びを思い出させてくれたのは、ねーさんだよ」


「だから、教えてあげる。俺ね、この声だけで生きていけるようになれたらいいなって思ってるんだ。『歌手になりたい』。それが俺の夢で、"願い事"だよ」


七夕の短冊を見て、『願い事をしてまで、叶えたい夢は無いからね』と悲しげな顔で呟いていた九嶋くんの姿を思い出した。



「夢を思い出したのね。……良かった。叶うといいね」



「叶えるし、『crown』よりも、直喜よりも有名になるから。後で俺を選べば良かったって後悔しても遅いからね」


ニッコリと人の良さそうな笑顔を浮かべながらそんな事を言うから、思わず『ふふっ』と声を立てて笑ってしまった。

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