ベビーフェイスと甘い嘘

……掴みかかってもいないのに。




こうやって噂話は、あっという間に(スピーカーを通して)大げさになっていくんだな。



「もう大丈夫だから」と、唯ちゃんを店舗に戻し、私は店長に向かってため息をついた。



「名字だって……変わる予定なんて無いから、ずっと新川って呼んでもらっても構わない。私、気心が知れない人に名前で呼ばれるの嫌いだから。……ねぇ、『アイザワ』さん」


嫌みを交えながら言うと、店長は顔を引き攣らせて、ぐっと押し黙ってしまった。



……本気で怒らせたかなって後悔するくらいだったら、初めからからかわなきゃいいのに。



いつもはクールに振る舞っているくせに、本来は感情が豊かな人だし……



本当は優しくてお人好しな部分もちゃんと持っているのだ。この相澤樹という男は。




初花ちゃんと……とても素直な彼女と一緒にいるから、彼も感情を素直に表に出す術を思い出したのだろう。



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