ベビーフェイスと甘い嘘

水曜日、午前10時。

コンビニの自動ドアをくぐり、セルフのコーヒーマシーンの横に立った藍色のエプロンを付けた男に向かって、私は挨拶をした。

「いらっしゃいませ、宇佐美 直喜さん」

宇佐美 直喜(うさみ なおき)。これがこの男のフルネームだった。


***

「ところで、ナオキが何者かねーさんまだ知らないの?」

昨日『pastel』で、一通り話が終わった後九嶋くんがふいにこう聞いてきた。

「知らない。知ってるのは『ナオキ』って名前と、『ウサミ』で働いてる人だって事だけ」

そんな私に九嶋くんは「しょうがないヤツだね、あいつは……」と言いながら、ナオキの正体を教えてくれたのだ。



***

そんな事は予想の範囲内だったのだろう。直喜は別に驚く様子もなく、

「はい。お弁当屋『ウサミ』の次男、直喜です」

以後ヨロシク。と営業スマイルを浮かべながら言った。


まさか、奈緒美ちゃんの結婚式で出会ったこの人が、『ウサミ』家の人だとは思ってもみなかった。


奈緒美ちゃんの旦那様の顔を思い出そうとしたけど、うろ覚えで……失礼だけど、途中で帰ったからあまり印象にも残っていなくて、目の前のこの人と似ていたのかどうかも分からなかった。
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