ゆりかご

2

「お兄ちゃん!何で起こしてくれなかったの⁈」

「知るかよ、そんなの。」

洗面所で髪の毛をセットする、ぶっきらぼうな兄の優一(ゆういち)と、その横で歯磨きを始めたあたし。

「頼んでたでしょ⁈」

「そうだったか?」

土曜日の朝、お母さんはパートがあるから忙しいし、お父さんは大抵寝てる…頼れるのはバイトに行くお兄ちゃんだけだったのに。

「もーお兄ちゃんのバカー。」

…全ッ然優しくない、誰が優一なんて名付けたんだ。

「だいたいオマエ、まだ9時半だろうが。午後からって言ってなかったか?」

「そうだけど、女には色々あるの!お兄ちゃんこそ何?そんなに念入りに髪のセットなんかしてさ。」

「うるせーよ。バイト行くんだから身だしなみだよ、身だしなみ。」

「へいへい。」

お兄ちゃんはこの4月から大学生になって…これまでヘアワックスなんか使ったこともなかったくせに……身だしなみねぇ…お兄ちゃんにも色々あるって事か。


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