魅惑の純情泥棒
顔を真っ赤にして肩をガシッと掴まれ、この間のように距離を取られる。
ちっちゃくても誠太は男。
力では敵わない。
「もー…、この後に及んで君って人は…。」
…毎度の事なので和穂は分かっていた。
こうやって冗談みたいに終わって、一緒にワァワァ喋りながら帰って、また明日ね、と別れ、次の日待ち合わせ場所で笑いながらおはようといい合うのだ。
うん、初のドキドキキスが出来なかったのは残念だけど、もう本当に残念デスが、
いつものこの感じも嫌いじゃない。
にこにこしながら、私達はやっぱりゆっくりがいいよねぇ、と和穂が気持ちを切り替え始めた時、肩にかかっていた二つの手に、力が入った。
「…違う。」
ぼそりと低く呟かれた言葉に、和穂はきょとんと目を丸める。
「へ?」
「俺から行く。」
力強く、ハッキリ声に出して。
一層手に力を込められ。
真剣な、男の人の目。
そのまっすぐな瞳と目がバチリと合った。
…え
え、何その新しい展開。
「ぁ、あの、無理はしないで。」
和穂はしどろもどろになりながら真顔になる。
「して無えよ。」
ムスッとしながら誠太は意を決したように前のめりになった。
その勢いで今度は逆に和穂が若干後ろに反り返る。
わ、
わわ。
和穂は、顔を赤くしつつも目を逸らしもせず、逃げようともせず、真っ直ぐに迫ってくる自分の彼氏におおいに戸惑った。
さ、される側とか想像してなかった…っ。
…ぅわ、こりゃ緊張するわ。
まな板の上で包丁をいついれられるか分からない活魚になったような気分。
「…、待って。ば、ばくばくしてきた。」
「それぐらい我慢しろ。俺はお前が側にいる時はだいたいそんな感じだ。」
そんな嬉しい事を言いながら怒ったように迫る彼に、体が勝手に熱くなる。
せ、誠太が…っ、
あの恥ずかしがり屋過ぎる誠太が…っ、
なんか今日は男らしいんですけどぉぉおっ!
「うー、まぁそれは知ってるけど。」
照れと感動で火照る頬を誤魔化すために和穂はまた軽口を叩く。
そんな必死の軽口を、この純情男子はあっさり流した。
「もう喋んな。口閉じろ。」