恋愛格差
彼のウソを暴きます
早めに来てよかった。
だって今、私の視線の先にはやっぱり疲れた様子の優が佇んでいる。

時刻は8時前。
幸代さんの言ってた時間より少し早めに退社したようだ。

私の家とは全く関係のない地下鉄の駅。

優も私も家に帰るのに地下鉄は使わない。

でも地下鉄の駅で電車を待って、一人乗った。

カズは優の近くに、私は隣の車両に乗り込んでこっそり跡をつける。

幸代さんは「仕事終わってから合流する~」とのこと。
優の仕事のフォローはまだ続いているようだ。

乗って3駅。
そこで優は降りた。

優はいつもかっちりとスーツを着こなしていて、
腕時計だって靴だってネクタイだって上等で小綺麗だ。
どこから見てもイケメンだし。

その優がまったくオーラがない。
肩は肩パッドがあっても下がっているように見えるし、
背中もやや丸くなってる。

これじゃあ自宅のローン地獄と妻の嫌味に疲れた中年のオジサンだ。

そこまで落ちぶれちゃいないと思いたいが……


優の後をカズが、その遥か後ろを私が歩くこと3分。
とある小汚ない雑居ビルに入っていった。

私があわててカズに近寄ると、カズは手前にある小さなエレベーターを顎で指した。止まっている階の数字を見て、

「2階……だな」

私たちは階段で上がるとその階を見回した。

エレベーターから一直線に通路があり、
その両側に6つの部屋。

奥の2つは入居していなくて、
4つの部屋は全てスナックかラウンジ……か、とにかく飲み屋のようだった。

すべてのドアの前には「会員制」と書かれた札。
変な客を断るための安全策だろう。

「カズ、どうしよう……」

カズも困って「俺一人で入るのこえーしな……」と頭を掻いた。

「外で待ってるか」
「一時間ぐらいは出てこないんじゃない?」

外に出ても都合よくガラス張りのカフェや居酒屋なんてないし。

うろうろしてるとスマホが震えた。

『今仕事終わった!どこ?』幸代さんだ。

駅を教え、『着いたら連絡ください』と返し、
私たちは取り合えず近場をグルグル歩いた。

その街は駅前こそ賑やかだが、優が入っていったビルから少し先はもう店はあまりなく、ビルとマンションが並ぶ。

こんな会社と家と関係のない場所にあるスナックに足を運ぶのは何故なのか。

それはやはり、誰かと会う、そういうこと以外には考えられない。

「ほれ」
カズが温かい缶コーヒーを目の前に差し出す。

「あ~ありがと。」
それを一口飲むと、カズの変わらない優しさが体に染み渡るようだ。
思った以上に衝撃を受けているのかもしれない。


バーにしか行かない優がスナックに一人で入っていったこと。
それも女性に会いに……ということ。
しかもあの優の仕事や服装、雰囲気まで堕落させてしまう程の影響力を持った女性に。




< 53 / 124 >

この作品をシェア

pagetop