異聞三國志
休日のある日、士郎の目にあの笛がとまった。

あのヤマトタケル由来という笛が。


何気なく、鞄に入れておいた。がしばらく、忙しさでそんなことは忘れていた。


が珍しく今日は患者が容態の急変等もなく、平穏に過ごしていた。

物悲しい音色。


『あ、その笛。』


理佐子が側に来て懐かしそうに、言った。


『その笛のおかけで、ここに来たんだものね。また吹いたら、帰れるかもよ。』


『アホ、そんなことはとうにやってるし。こっちに来た時に。戻れませんでした。』


『夕暮れじゃなかったからではないの?』


『夕方にもやりました。』


『じゃあ、雷とか。』

『この時代には天気予報なんてないんだぜ。そんなことは予想できないし。最近は笛のことすら、忘れてたよ。』


そんなこんなを話しているうちに、にわかに空が怪しくなってきた。

『理佐子が雷なんて言うから本当に来そうだよ。』


士郎は遠くに雷鳴を聞きながらも、降ってきたら病院に入ろうと思っていた。
< 85 / 93 >

この作品をシェア

pagetop