控え目に甘く、想いは直線的
「拓人、お前には同行するという予定がある」


「ええ? 同行が必要なんて聞いてないですよ」


「今、決めたから」


部長の無謀ともいえる突然の決定事項に大石さんはブツブツと不満を並べた。

しかし、部長はその不満を右から左へ流しているようで、どんなに文句を言われても動じないし、大石さんの同行は取り消さない。


「もっとかわいくお願いすれば、俺も快く返事するんですけどね。たまには素直な要さんが見たいな」


大石さんはパソコンに目を向けている部長の肩を抱き、楽しそうに笑う。

部長は大石さんの手の甲を軽く叩いて、「離れろ」と睨む。この二人のやり取りは見ていて面白いことがある。今のも面白くて、こっそりと様子を見て口元を緩ませてしまう。


「いいから、お前は早くパソコンを立ち上げろよ。野々宮だってもう座ってるじゃないか」


微妙な褒められ方だけど、パソコンの電源を入れたのはたった今だから、威張れるほどのものではない。


「はいはい。分かりましたよ」


大石さんは口を尖らせて、自分のデスクに行った。
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