その手が暖かくて、優しくて
「登校中の皆さん!僕はこの度、生徒会長選挙に立候補した山下健介です。いまのクラスによる階級制度をなくし、全ての生徒が平等で差別のない学校にしたいと考えています。皆さん!どうか投票日には山下健介をお願いいたします!」

正門前では、健介がさっそく選挙運動を開始していた。
いつにない真面目な顔をした彼は、そこを通る登校中の生徒たちに投票を呼びかけていたのだった。

「健介!おはよう!立候補したんだね。がんばってね。応援するよ。」
ちょうど、そこへ亜里沙が登校してきた。

「おう!がんばるよ!ありがとう。」
健介は亜里沙に力強く、そう答えた。

そんな様子を生徒会長室の窓から、綾小路は不敵な笑みを浮かべながら見ていた。
その表情は
「あーこいつ、なんか悪いこと考えてんなー」っていう顔だった。


同じく、亜里沙を見つめる男がもう一人いた。
勝弥である。

彼は亜里沙のことがずっと好きで、彼女を陰で見守っていた。
自分みたいな不良は亜里沙に近寄っちゃいけないんだと、勝手に彼が考えていたからだ。
だから、陰ながら亜里沙を守り、彼女に幸せになってほしいと思っていた。
ただ、少し行き過ぎたこともあって、亜里沙に近づこうとする男に対して、勝弥は片っ端から「お前、本気なんだろな」とか「亜里沙と付き合うことになったとして、万一、浮気でもしようものなら殺すぞ」とか「もし彼女を泣かせるようなことがあれば、どこへ逃げたって見つけ出してボコボコにするからな」などと問い詰め、結果、亜里沙に近づこうとする男はいなくなっていた。

亜里沙自身も「なんでアタシはモテないんだろ…」と悩んだこともあった。
容姿は決して悪い方ではないと彼女も思っていた。
大きな目に、やや幼い輪郭を持ち、髪形は黒く肩までのロング。背は155cmくらいで、胸の大きさは、いまひとつかもしれないが、細見でスタイルも決して悪くはなかった。
しかし、彼女に寄ってくる男は、これまで不思議といなかった。

話しかけてくるのは幼なじみの健介くらい。
もしかして、あのバカと付き合っていると誤解されて男が寄って来ないんじゃ…
なんて健介のせいだと考えていた時期もあった。

生徒会長選挙は、立候補届出開始日に2人の候補者が並び、盛り上がりを見せていた。
ほとんどの生徒が、立候補締め切り日まで誰も手を挙げないまま、無投票で綾小路の続投が決まるんだろうと予想して、今回の選挙に対しても無関心でいただけに、予想外の対立候補の出現に選挙への関心も高まっていた。

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