その手が暖かくて、優しくて
亜里沙、立ち上がる!
「俺は…嵌められたんだ…」
駅前のファーストフード店で亜里沙の向かいに座る健介は俯きながら、そう言った。

「健介…」

亜里沙は、そんな健介にかけてあげる言葉も見つからず、黙って聞いていた。

「ちくしょう!汚い手を使いやがって!」
健介は退学は免れたものの無期停学処分となった。つまり、いつ学校に戻れるのか全くわからない。下手をすれば出席日数が足りなくなって留年してしまうかもしれない。

亜里沙は健介を可哀想だと思う以上に、こんな汚いことをした現生徒会への怒りが収まらなかった。
「許せない…これからも学校が、あんな連中の思い通りになるなんて…」

しかし、彼らの力が、それだけ強大だということも今回のことで思い知らされたのも事実だった。
亜里沙の心は葛藤に揺れていた。

これまで「しょうがない」という言葉でごまかしてきたが、いまの旭が丘高校は間違っている。彼女は、はっきりと、そう思っていた。
そして、そんな自分の気持ちや信念をもごまかして、見て見ぬふりをし、何も行動をおこさないまま3年生になってしまったのだ。
それなのに…今回、健介は違った。
こんな結果になってしまったが、少なくとも彼は自らの信念に従い行動したのだ。





その夜、ベッドで眠る亜里沙は夢を見ていた。

夢のなかの彼女は、フランスの田舎町に住む平凡な貧しい農家の娘。
当時のフランスはイギリスとの長きに渡る戦争の最中だった。
そんな彼女は、ある夜、神からのお告げを受ける。

そのお告げに従い、彼女は軍隊を率いてイギリス軍を撃破し、フランスを救う。しかし、その後イギリス軍に捕らえられてしまい、火刑に処されてしまうのだった。
しかし、夢のなかで彼女は「私は、私の信念に従い行動した。だから悔いはない」と考え、最期の瞬間に叫んだ。

「フランス万歳!」





朝、目が覚めた亜里沙は、暫く夢と現実の狭間にいるような感覚だった。
妙にリアリティのある夢だった。
夢のなかで手にした剣の感触も生々しく残っているような気がした。

そうだ!このまま知らん顔して何もしなかったら、アタシはきっと後悔する。
万が一、健介と同じ結末になったとしても、そのときはそのときだ。留年したって健介という「留年仲間」がいるし…

「うん!やろう!」

亜里沙は自分を奮い立たせるように鏡に映る自分に向かって、そう言った。

ついに亜里沙は
今の生徒会に対して、立ち上がることを決意したのだ。


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