その手が暖かくて、優しくて
放課後になって、金田は生徒用玄関に向かい、自分の下駄箱を見て驚いた。
そこには一通の手紙が置かれている。

「これは…もしかして…」

一度、周囲を見渡してから、彼は、その手紙を手に取った。
差出人は「中村瑞希」
ドキドキしながら、金田はその手紙の中身を見た。
「金田君へ。返事が遅くなってごめんなさい。でも、お手紙ありがとう。嬉しかったです。一度、ゆっくりお話しがしたいので、今度2人きりで会っていただけませんか?」

「やったぁ!」金田の心は躍った。




その日の学校からの帰り、久しぶりに降り出した雨に傘をさして亜里沙は駅に向かっていた。

通りかかった公園で、彼女は大田原を見かけた。
今朝、正門で彼女の前に立った彼は、噂に聞いているような、ただ凶暴なだけの人物には見えなかった。亜里沙は、大田原の姿を見ながら、そんなことをぼんやりと考えていた。

一方、その日、大田原も雨のなか傘をさして私鉄駅へ向かっていると、通りかかった公園の片隅に3匹の捨て猫がにゃーにゃーと鳴いているのが見えた。
まだ、子猫だ。それが、箱に入れられて置かれてある。

例の携帯小説みたく、後で美少女になって会いに来てくれるかも…と100%ありえない可能性にかけて、彼は持っていた傘を、その捨て猫たちのところに置いた。

それから雨のなかを走って駅の方向へ行こうとしたとき、目の前に亜里沙が立っていた。

「あ…!」
ドキッとして足を止めた大田原に、なりゆきを見ていた亜里沙は

「大田原君って、本当は優しい人だったんだね」

それを聞いて、思わず顔が、かあっとなり、ドキドキが止まらなくなった大田原は亜里沙に無言で再び駆け出してしまった。

公園の片隅で、大田原が置いた傘で雨から守られている捨て猫たちと、走っていく大田原の背中を、交互に亜里沙は見つめていた。



その頃、生徒会議会は紛糾していた。
「きさま…ふざけんな!」思わず華麻呂が叫ぶなか、風紀委員長の清宮公正が提議した「学校裁判の開廷」が決定した。それは投票日前日の午後17時から。華麻呂には、そこへの出廷が言い渡された。

家に帰った華麻呂は
「くそ…清宮のやつ、裏切りやがったな」
とりあえず金田には完璧な帳簿類を用意するよう指示しておいた。
俺の流用がバレれば、あいつのだって同じだ。
きっと、必死でやり遂げるだろう。

「ふう…」珍しく溜息をついた華麻呂は、その日もお気に入りのフットマッサージ機に足を入れ、マッサージの強さを「強」にした。

ウィーン…ウィーン…低い機械音が響く…

「痛た…でも気持ちいい」

ウィーン…ウィーン…
(ほうら!痛いのが気持ちいいのかい?)

「き…気持ちいいです」

ウィーン…ウィーン…
(しようがない子だねえ…お仕置きだよ)

「おお!も…もっと」

ウィーン…ウィーン…
(欲しがり屋さんだねぇ)




「…フ…フットマちゃん…」





彼の「へんたい」ぶりは、さらに進化していた。

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