イジワル同居人は御曹司!?
奏さんは隣に腰を下ろして、ブラウンの瞳で私の顔を覗きこむ。

「それで大丈夫だったのか?」

いつになく優しい声色に私は戸惑いこっくり頷いた。

「一人で家に帰る気にはなれなくて…」

笑って見せようかと思ったけど顔が引き攣って上手く表情が作れない。

「悪かったな。その…怖い想いをしたとは知なくて」

奏さんは不器用な手つきで私の頭を撫でた。

大きな手のひらから温もりが伝わって来て酷く安心する。

恐ろしい記憶も薄らいでいく気さえしてしまう。

気が緩んだのか堰を切ったように両目から涙が零れた。

メガネの前で泣くなんて一生の不覚なのに。

「電話で言ってくれれば直ぐに帰ったのに」

「め、迷惑だと思って…」

「なんだそれ、今更かよ」奏さんは呆れたようにクスリと笑う。

「きっと私は呪われているんです。身の丈に合わない高級なバックを買ったバチがあたったんです。だから家も燃えたし、痴漢にもあったし」

私は泣きじゃくりながら一気に捲し立てた。

「そんな事言ってたら世の中呪われている人だらけになるだろ」

奏さんはポケットから折り目のついたブルーのハンカチを取り出し私の涙を拭ってくれた。

ま、アイロンを掛けたのは私なんだけど。

「それに紗英は頑張ってるじゃないか」

不意に名前を呼ばれて鼓動が大きく跳ねる。

顔を上げた瞬間、通りがかった男性とバチリと目があった。

「…あ」思わず私は声を上げてしまう。
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