イジワル同居人は御曹司!?
奏さんも振り返って私の視線の先を追った。

そこには幽霊でも見たような顔でこちらを見つめている奏さんの部下、小泉青年がいた。

泣いている私、そしてその涙を拭う奏さん。

その様子から只ならぬ状況を感じ取ったらしい。

「また来週、小泉」

奏さんは平静を装い、お仕事スマイルを浮かべる。

「お疲れ様です羽瀬さん、藤田さんもまたミーティングで」

小泉青年は二コリと微笑みながら一礼すると颯爽とした足取りで去って行った。

「マズイですかね」

突然の出来事に涙はスッカリ引っ込んだ。

「誤解されただろうな」

だけど、取り繕う術も今は無い。

事情を説明したところで今度は同居していることがバレてしまう。

あっちを立てればこっちが立たず。

「まぁ、いい。ミステリアスな大人の関係って事にしとくか」

なんじゃそりゃ。全然よくない。

私が「で、でも」と言いかけるが「今はそんなことどうでもいい」と、奏さんはバッサリ切り捨てる。

「気分は落ち着いたか?」

私はこっくりと頷く。

「じゃ、行くか」奏さんに手を引かれて立ち上がる。

「へ?どこへ」

警察、と言って奏さんは手を握ったまま大通りへと向かう。

手なんて繋いで歩いてたらまた誰かに誤解されるんじゃないの?

と、思いつつも指先から伝わってくる人肌の温もりが心地いい。

私は何も言わずに大きな手をギュッと握りしめた。
< 57 / 328 >

この作品をシェア

pagetop