きみの愛なら疑わない

浅野さんの腕が私の腰に回ったまま離そうとしてくれないから、窮屈な体勢でカバンからスマートフォンを出した。

「あれ、私も優磨くんからです」

画面には『城藤優磨』と表示されている。

「じゃあ後でいいよ」

「でも、浅野さんにかけたすぐ後に私にかけてくるなんて急用かもしれません」

家族の事情でバイトを休んだことが気にかかる。嫌な予感がした。

キスを中断されて少しだけ不機嫌になった浅野さんは、優磨くんにかけ直すためにスマートフォンを耳に当てる私の反対の耳にキスをしてくる。

「もしもし美紗さん! 今慶太さんと一緒ですか?」

左耳にキスをされるチュッという音と、右耳からは優磨くんの声が重なって通話に集中できない。

「うん……そ、だよ……」

浅野さんのキスはどんどん下りて首までくすぐる。熱を持ち始めた体が小さく震える。
こんなに甘えられてはここが外なのを残念に思った。

「大変です! 帰ってきました!」

「だれっ……誰が?」

キスの攻撃に震えてうまく声が出ない。

「姉です!」

え? 優磨くんの、姉……?

私の体の震えが止まった。浅野さんの唇の感触が消えた。

「今日突然帰ってきたんです! 家族で話し合いをしたらさっき出ていっちゃいました。慶太さんを探しているのかもしれません!」

思考が停止する。

美麗さんが帰ってきた……そして浅野さんを探している……?

「足立さん?」

「美紗さん聞いてますか?」

耳元の浅野さんの声も電話の向こうの優磨くんの声も届かない。

美麗さんが帰ってきたら、私の罪が露見してしまう……。

「俺は今車で姉を探してます。慶太さんの家の近くでは見つかりませんでした。今から思い当たる知人の家に向かうところです」

優磨くんの言葉が頭に入ってこない。

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