きみの愛なら疑わない

いきなり立ち上がった浅野さんはホワイトボードに明日の予定を書いた。そうしてすぐにカバンを持ってフロアを出て行ったから私もカバンを掴んで慌てて後を追った。

エレベーターのドアが閉まる直前に手で押さえて強引にドアを開けると、中に入って目を見開いて固まる浅野さんの横に並んだ。

「無視しないでください……」

浅野さんは溜め息をついてエレベータの『閉』ボタンを押して、私の顔を見ずに「避けてるんだって察してよ」と呟いた。

「こうでもしないと話ができないじゃないですか……」

「何度言わせるの? 僕はもう終わりにするって。君とは一切関わらない」

「ごめんなさい……」

「謝罪はもういい。これ以上僕を不快にさせないで」

「っ……」

時間をあければ冷静に話し合えるのではないかと僅かに期待していたのに、再度の謝罪も言い訳も離れないでと縋ることさえ彼は私に許さない。

「こんな時間まで僕を待ってまで何を期待してるか知らないけど、迷惑だから。業務以外では話しかけないで」

そう言い捨ててエレベータのドアが開くと浅野さんは1階のフロアに降りた。離されないように必死について行く。

「じゃあ……業務の話をします……明日は私は11時に新店に行きますので、作業腕章は今江さんにもらえばいいですか?」

明日は浅野さんが担当する店舗の内装の写真撮影がある。私が新店に行って写真を撮ることになっていた。

「そのことだけど、写真はメニューと一緒に撮るから足立さんは来なくていい」

「え? でも作業報告書は私の担当では?」

「今江さんが一緒に撮るから大丈夫」

「メニューと同じカメラで撮ったらデータが私の手元に来るまでに時間がかかります」

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