きみの愛なら疑わない

「なら内装だけ先に送るように今江さんに言っておく」

食い下がっても浅野さんは私を新店に来させる気はないようだ。業務を奪ってまで私を遠ざける。
自業自得なのだけど、気持ちが通じていたときとあまりの態度の違いに苦しくなる。

「仕事を変えて過去を忘れようとしてるのに、転職先にまで過去を持ち込みたくないんだ」

足の力が抜けて転びそうになった。そんな私に気付いているのかいないのか、浅野さんは歩みを止めてしまった私を振り返ることもなく会社を出て行った。

私がここに居ることで浅野さんを苦しめ続ける。こうなることなんて望んでいない。
苦しめ続けるくらいなら私は身を引いて彼の前から消えるということも考えた方がいいのかもしれない。










新店から浅野さんと今江さんが帰ってきた。帰ってくるなり浅野さんはフロアを出て行った。
今江さんから写真のデータを受け取るとパソコンに取り込む。

撮影された写真は店内の全てが撮られたわけではなかった。このまま報告書を上げて部長に指摘されたら困るのは浅野さんなのに。

フロアに響く内線の音にも相変わらず店舗管理課の社員は無視を決め込んでいる。鳴っているのは浅野さんのデスク。本人が席を外しているからか誰も出ない。仕方なく私が代わりに受話器を取った。

「はい、企画管理課の足立です」

「あ、総務部の北川です。お疲れ様です」

「お疲れ様です」

内線の相手は総務部の女の子だ。

「店舗管理課の浅野さんは席にいらっしゃいますか?」

「すみません、今席を外しているみたいです。多分すぐに戻ってきますよ」

「そうですか……あの、足立さんがご存じでしたらお伺いしたいのですが」

「はい」

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