きみの愛なら疑わない

カバンからスマートフォンを出して浅野さんに電話をかけた。数秒間コールして音が止まったかと思うと「はい……」と浅野さんの掠れた声が聞こえた。電話を無視しないで出てくれたことにほっとする。

「あ、あの、足立です……」

「……何?」

相変わらず短い応対で冷たい声だ。

「えっと……大丈夫ですか?」

「……大丈夫じゃないから切るよ」

「待ってください! 今浅野さんの部屋の前に来てるんです」

「は? 今?」

「はい……」

「マンションの下に?」

「いえ……ドアの前にです……」

「…………」

電話の向こうの、目の前のドアの先で浅野さんが混乱している姿が想像できた。

「優磨くんに鍵を預かってます。あと今江さんから入館証も」

「あいつ……」

浅野さんが優磨くんに呆れたのが伝わった。

「……じゃあ入ってきて」

「え? いいんですか?」

「そこまで来てて追い返すほど鬼じゃないから。僕今起き上がれそうにないんだ」

「分かりました……」

電話を切ると目の前のドアに鍵を差し込んで開けた。

「おじゃまします……」

声をかけても返事がない。
靴を脱いで中に入るとリビングの横にある寝室のドアは少しだけ開いていた。そのまま寝室のドアをノックした。

「浅野さん……」

「入っていいよ」

中から聞こえた声を合図にドアを開けた。浅野さんはベッドの上で横になっている。

「大丈夫ですか?」

ゆっくりとベッドまで近づいた。浅野さんはスマートフォンを握った手をベッドの端から床にだらしなく垂らし、呼吸もまだ荒かった。

「優磨が君を呼んだの?」

「いえ、偶然下で会いました。私は今江さんから預かった入館証を渡しに来ました」

「そう……」

目を閉じてしまったけれど眠る様子はない。

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