きみの愛なら疑わない

通路を右に曲がると前から浅野さんと今江さんの声が聞こえてきた。私は思わず足を止めた。先のロビーに二人がいるようだ。ここからでは壁に隠れて二人の姿は見えないし、私がいることも二人は気づいていない。

私は隠れたままそっと二人の様子をうかがった。ロビーのソファーで休憩する今江さんに浅野さんが缶コーヒーを渡しているようだ。

「さっきはきつく言いすぎちゃってごめんね」

「いえ……」

こんな二人のやり取りに覚えがある。

「もしブラックが好きだったらごめんね」

そう気遣う浅野さんの言葉にも。

懐かしくて大事な思い出。その思い出と今の二人の会話が重なって、私は堪らなく今江さんに嫉妬する。子供っぽいとは自覚している。けれど芽生えてしまった嫉妬心は抑えきれない。

私は足を動かした。壁の向こうの二人の空気に割って入るために。

「お疲れ様です」

そう言って二人の前に立った私は焦った。目の前には優しい笑顔を見せる浅野さんと、それを見て惚ける今江さんの顔。和やかな空間に私が入ってもそれは崩れなかった。

「ああ、足立さんお疲れ様」

今江さんに見せたままの顔を私にも向ける浅野さん。その浅野さんから目を離さない今江さん。彼女は今『女』の顔をしている。滅多に見せない浅野さんの笑顔に心を捕まれてしまったのだ。同じだから分かる。私もこの気持ちを確信した瞬間が同じだったから。

私だけが気づいていると思っていた。私しか意識しないと思っていた。浅野さんの不器用な優しさを。

「じゃあ僕は行くね」

「お疲れ様です……」

浅野さんは通路の奥へ歩いていった。ロビーには私と今江さんだけが残された。

「…………」

「今江さん大丈夫?」

あまりにも静かだから私は今江さんが心配になった。

「あ、はい……大丈夫です」

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