きみの愛なら疑わない
◇◇◇◇◇



年内は浅野さんと一度も会うことはなく、年が明けても出勤すると言っていたのに現場に行ったまま会社に来た様子はなかった。
返すつもりだった一万円だってデスクに置いておくわけにもいかない。
中途半端に気持ちを伝えてしまったことで数週間もの間苦しくなった。





食堂に入って潮見が買ってきたお弁当を広げた。

「ねえ美紗ちゃん、いい加減教えてよ。忘年会の後浅野さんと何があったの?」

「……別に」

「もう、またそれ? 何もないわけないでしょ」

浅野さんに気持ちを伝えたことも潮見には言っていない。そして中途半端に逃げられたことも。

「美紗ちゃん……」

潮見が真剣な顔で私の顔を覗き込んだ。

「浅野さんと寝た?」

「は!?」

「いや、もしかして浅野さんが噂通り美紗ちゃんと一晩過ごしたけどそれっきりの人だったのかなって……」

「全然違うよ」

一晩だけでもいい。酔った頭でそんなことを期待しなかった訳じゃない。でもそれすらもなかった。

「酔ってることを心配されてタクシーに押し込まれて帰された」

「そっか……それは良いのか悪いのか、だね」

「やっぱり会社の子には手を出さないんだよ」

「じゃあ何であんなこと聞いたのかな?」

「ん?」

「美紗ちゃん実はね、さっき浅野さんと車で移動してたんだけど、美紗ちゃんのこと聞かれたよ」

「え?」

「美紗ちゃんって彼氏いるのかなって」

「はい?」

浅野さんが? 本当にそんなことを聞いたの?

頭にたくさんの疑問符が浮かぶ。

「それ潮見の作り話じゃなくて?」

「失礼な! 本当のことだよ」

潮見は頬を膨らませる。小柄で可愛らしい容姿の潮見はそんな表情も嫌みがない。

「あの夜何もなかったのは美紗ちゃんが特別だからじゃない?」

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