きみの愛なら疑わない

「そのバンド好きなんですか?」

優磨くんがカウンターにカップを置き、私の読む雑誌に視線を移す。少し怒ったような、不機嫌そうな目をしてバンドメンバーを見た。

「ううん、好きではないんだけど……」

ほんの少しの懐かしさと興味。それで見ていただけだ。

「今人気ですよね。キリンエラー……でしたっけ? テレビつけても外でも、どこにいてもこの人たちの曲流れてます」

「そうだね……私はあんまり音楽聴かないから詳しくないんだけど」

「俺もこのバンドは嫌いです」

「…………」

いつもよりも力強い声できっぱりと言い切った優磨くんに驚いた。今までの印象から優磨くんは好き嫌いがあっても濁して伝える子だと思っていた。それだけこのバンドを嫌う理由があるのかもしれない。

「それは何で?」

「そういえば慶太さんって会社じゃどんな感じですか?」

「え?」

「きっと会社でも小うるさく部下に注意してるんじゃないですか?」

「えっと……」

「優しい言い方とか出来ない人だから泣いちゃう女の子とかいないですか?」

優磨くんはバンドを嫌う理由には触れてほしくないらしい。強引に浅野さんの話題に持っていく。

「そうだね……会社じゃそんな感じかな」

「やっぱり。ほんと分かりやすい人だからな」

「浅野さんが分かりやすいなんて言うのは優磨くんくらいだね」

「そうですか? すごく分かりやすい人ですけど」

付き合いが長いからこそ言えるのだ。優磨くんが中学生の頃から知っているということはもう10年近くになるのかもしれない。

もしかしたら優磨くんは浅野さんの過去も婚約者のことも全部知っているのではないだろうか。問題の結婚式は4年前。その頃優磨くんは高校を卒業する頃だ。

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